7days book cover challenge-1:無影燈

先日、Facebookでbook cover challengeというバトンを受け取りました。内容は以下。

This is a challenge for contributing to the spread of reading culture. The method of participation is to post a favorite book, one book per day for 7 days. You upload an only cover image without explanation about the book and invite one FB friend to participate in this challenge every day.

これは読書文化の普及に貢献するための課題です。参加方法は、好きな本を1日1本、7日間投稿する方法です。本についての説明なしにカバー画像のみをアップロードし、FBの友達1人を毎日このチャレンジに招待します。

装丁が好きな本を7冊選び、そのデザインについてきわめて個人的な感想や見解を書きました。Facebookでは内容に触れないルール(?)でしたが、こちらでは作品内容についても少々紹介していきたいと思います。ネタバレもあるかもしれないのであしからず。


1日めは渡辺淳一の“無影燈(下)”です。

f:id:star-gazer:20200415220032j:plain

文春文庫、2012年第13刷。(他の版では表紙が異なります)

渡辺淳一の医療もの長編小説、1972年初版。1973年に田宮二郎さん、2001年に中居正広さん主演で“白い影”のタイトルでドラマ化されています。無影灯とは手術室に使われる照明器具です。

あらすじを雑に言うと、腕は超一流だけど女癖と勤務態度の悪い小さな病院の外科医・直江庸介と看護師・志村倫子の関係を軸に、直江が将来有望だった大学病院を辞め荒れた生活をしている事情には彼をむしばむ病気の存在が…。という、まあ医師作家である渡辺淳一の王道作品のひとつと言えるでしょう。

本作では骨がキーとなっているのでそれを意識したのか上下巻ともレントゲン画像が表紙に使われています。ちなみに上巻は骨盤と大腿骨のつなぎめのような位置です。

手のエックス線画像と指輪の組み合わせは、レントゲンがX線の存在に気付いた瞬間を想起させるモチーフ。モノクロな骨の写真に輝く指輪を置くことで無機質と有機物が逆転していくような儚さがあります。生の儚さ。渡辺作品を全て読んだわけではないですが、初期の医療ものから晩年に多い恋愛ものまで登場人物に儚さを感じさせる作品は少なくないです。生は儚いからこそ重みのあるもの、そういう考えを私は感じます。

私は小説を書いたことはありませんが、タイトルは内容に関連している、象徴となっている、そういう存在であると思って読んでいます。ドラマ版の「白い影」はX線画像で白く映る骨を象徴したタイトルかな。本作では手術中の描写は(たしか)ないにも関わらず、手術室と言えばお決まりの白く点灯する無影灯をタイトルにしています。さてこの作品で「無影燈」が示すものとはなにか。

この下に立った時は直江も倫子も患者も誰も影がなかった。影のないそれだけの人間であった。(下巻p326)

このような描写があります。誰も影がない。存在しているのに影がない。私のひとりよがりな感想かもしれませんが、影とは陰のことでもあり、無影灯の下に立つ倫子には直江がひとり抱えていた陰の部分が見えたのではないか。それは希望でもハッピーエンドの示唆でもありません。しかし影がなくとも存在を感じられることは倫子にとって幸福な瞬間であったように思われるのです。

 

以上、無影燈の装丁の見解でした。がんばってあと6冊書きます。